Critique of Games メモと寸評

http://www.critiqueofgames.net の人のブログです。あんまり更新しません。

新連載『中心をもたない、現象としてのゲームについて』

 こんばんわ。本日より、下記の新連載のほうを開始させていただきました。

 基本的には「ゲームとはなんぞや」的な話を、私なりに答えようとするものです。タイトルは煽りとか釣りということは考えておらず、けっこうベタにそれなりに複雑な現象としてのゲームというものを、真正面から考えていきましょうという話を書きたいと思っております。

 ただし、最初の数回は、明晰なものを目指すというよりは、問題提起的な文脈を、整えていくということにしようと思っています。興味深いが、やや曖昧性を残すトピックの紹介という形を予定しています(なので、細かな反論については、当面は意識せずに書く感じです)。

 「ゲームとはなんぞや」ということを考えようとしている方にとっては、少なくとも日本語圏で読めるものとしては、それなりのクオリティのものを準備したいと考えております。よろしくお願いいたします。

 

ch.nicovideo.jp

 

 

地方病(日本住血吸虫症)のWikipedia記事をビジュアルノベル化しました

地方病(日本住血吸虫症)のWikipedia記事がにわかにバズっておりますが、

こちらのWikipedia記事を、nScripterビジュアルノベル化したものを作りました。(いうほどゲームゲームはしてませんが)

動作環境としてはWindows環境であれば概ね動くと思われます。

 

配布ページ

http://www.critiqueofgames.net/chihobyo/

 

作業としては、昨年2014年11月ごろに行い、その後、各種の権利関係をもろもろと調査し、こういったことがウィキペディアの権利を継承するかたちで可能であるかどうかなどをゆるゆると確認していたら今になったという感じです。

 

この記事のすごいところは、もちろん、記述の圧倒的な分厚さ、迫力でありますが、この記事のサウンドノベル化をしながら、なぜこの記事が可能になっているのかということをつらつらといくつか考えました。

 

1.さかおり氏のすごさ

 

 一つは、むろん、この記事のさかおり氏の圧倒的な力量と熱量によっていると思われます。調べ物のクオリティがすごいのはもちろんのこと、この記事の画像データのおよそ半分はパブリックドメインのものを、残りの半分ぐらいはさかおり氏がみずから足をつかって、撮影し、アップロードしたものが占めています(その他のものも少々)。

 重要な資料であってもWikipediaに掲載可能なように権利処理をしうるもの「のみ」を使って記事が構成されており、これは、下手をすると、普通に商業的な仕事をするよりも大変だと思いました。

 また、こういった歴史資料的なものを書いていくと、淡々とした記述になりがちですが、さかおり氏の記述は、Wikipediaの要綱を守りつつも、物語的な構成に歴史を記述しようという意図にあふれており、ノンフィクションの書き手としてすばらしい力量であると思われます。

 

2.(ベタだけど)Wikipediaによる協業

 

 また、この記事がWikipediaという媒体のうえで展開されたことは、記事の書き方に「しばり」をつけているだけではなく、良い影響も与えています。

 たとえば、この記事の「ノート」の部分をみてみると

ノート:地方病 (日本住血吸虫症) - Wikipedia

 さかおりさんを中心としながら色々な方が、込み入った調査をされているのがわかるかと思います。

 

3.地方病をめぐる山梨県および関係者のアーカイブ構築をめぐる努力

 

 地方病(日本住血吸虫症)についての啓蒙的な資料が、つくられたのは何もこのWikipediaの記述がはじめてだというわけでありません。

 記事中にも外部リンクがはられていますが、1959年にも「いかにも当時の啓蒙映画」っぽい、『人類の名のもとに(モノクロ30分)』というものが作られていますし、1978年にも、ドキュメンタリー作品の『地方病との斗い』という二部構成の作品が作られています。特に78年のドキュメンタリー作品の大筋はWikipediaの記事構成にけっこう近いものです。さかおりさんの凄さはもちろんとしても、先行する作品のうえに拠って立つことで成立した仕事でもあります。

 また、風土伝承館 杉浦醫院、宮入慶之助記念館 、山梨県立博物館といった博物館、記念館があることによって豊富な画像資料が展示できているものだと思いますし、小林照幸『死の貝』、林正高『寄生虫との百年戦争』、山梨地方病撲滅協力会編『地方病とのたたかい』などといった資料の存在によって可能になっているものかと思われます。

 

 

 手短ですが、本記事のビジュアルノベル化に快くご対応いただいたさかおり氏をはじめ、本Wikipedia記事の作成に関わった多くの方に感謝をさせていただきます。

 なお、本ビジュアルノベルのテキストもCC-BY SAライセンスを継承しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム』展に展示していただいております

 本日より、新国立美術館で開始となる『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム』展ですが、こちらに#denkimeterを展示していただいております。

 http://www.nact.jp/exhibition_special/2015/magj

 …と書いたものの、私自身も予定の調整がうまくいかず内覧会には行けずじまいでして、まだ展示の現物を見ておりませんので、どなたか六本木/乃木坂にお立ち寄りの際には、見てきていただければ幸いです。
 あと、展覧会の書籍にもご掲載いただいております。

 しかし、「展覧会の準備って大変なのかなぁ」とかぼんやり思っていましたが、やはり大変ですね。展示スペースの構成を考えたり、書籍への掲載原稿やらで、けっこう何度もやりとりして、展覧会スタッフの皆様方には、いろいろとお手数をおかけしました。
 何しろ展覧会への出品などはじめてのことでしたので、いろいろと戸惑うことも多かったですが、展覧会スタッフの皆さま方を含め関係者各位に、改めて御礼申し上げます。

 

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 しかし、よく考えると、研究者の立ち位置としては自分のつくったものが展示されるとかじゃなくて、展覧会で、何がどのように展示され、どのような言説によってそれぞれの作品がポジショニングされているか、ということのほうが気になる(というか、気にすべき)ことなわけですが、展覧会のキュレーション・プロセスってなかなか複雑で、展覧会や美術展のような場所で書かれている解説の「言葉」というのが誰の言葉であるのか、というのはよくわからんものですね。

 

 

 今回の例だと、

  1. 展覧会全体のキュレーションをしていただいた方
  2. ゲーム分野のキュレーションをしていただいた方
  3. 展覧会の展示構成をまとめあげ仕上げていく管理スタッフ
  4. 展示の構成を仕上げるデザイナー
  5. 展覧会書籍の編集・ライター
  6. 展示対象作品の作者本人

 と、少なくとも6人ぐらいの作業が介在しているわけですよね。私の展示に関しては、対応する展示対象作品の作者本人が対応して書籍の文章とか、展示の構成案に直接に赤を入れたり、案をだしたりしましたが、これは私が零細企業的なものだからという特殊事情で、ほかの作品に関して言えば作者本人ではなく、アシスタントや作者付きの編集者等のスタッフがこういった展覧会などへの対応をしていると思われます。ですので、関係者はさらに増えて、全部で、8人ぐらいでしょうか。

 まあ、大企業とかが、公式に出している文書とか、お役所の文書とか、もはや「誰」の意思によって書かれたかわからない文章になっているものではありますが、展覧会の文章というのもなかなか不思議な状態にあるものだなというように感じた次第です。

 もっとも、一般的な書籍や出版物であっても、

  1. 著者本人
  2. 編集者
  3. 校正担当者(編集者が兼任することも多い)

 と、まあ、3人ぐらいで作っていて「著者本人」が書いたといえるかどうか微妙なところが0.5%~2%ぐらいあるのが普通ではありますが。

 言説分析、内容分析、テキストマイニング的な研究をするときに、テキストの性質と、こういった作者の多層性を前提に議論を組み立てるみたいな話って、誰かやってそうな気はしますが、どういう議論になってるのでしょうね。まあ、ざっくり言えば、法人格の文書と、個人の署名で書かれた文書の違いということになるのかもしれませんが、そこのところのグラデーションをめぐる議論ですわな。

新年度に際してのもろもろのお知らせ

  1. 肩書が変わりました

 現状の身分、下記になります。

  •  関西大学 総合情報学部(高槻キャンパス) 特任准教授(2015年4月1日~)
  •  立命館大学先端学術総合研究科 非常勤講師(2015年4月1日~)
  •  立命館大学衣笠総合研究機構 ゲーム研究センター 客員研究員(2014年4月1日~)
  •  国際大学GLOCOM 客員研究員(2012年4月1日~)

 実はどこの職場もフルタイムではないのですが、立命館(衣笠)にいる時間がもっとも長いと思われます。京都近辺をお尋ねの際は、水曜~金曜でしたら事前にご連絡いただければお会いできるかと思われます。

 立命館での授業は、月曜2限、10時40分~で大学院生向けに「ゲームとはなんぞや」系の話をなるべくガチな感じで、やっていきたいと思っております。

 関西大のほうは、火曜1限と4限で、学部生向けですので、もう少し間口の広い感じでやろうとおもっております。ゲーミフィケーション、ゲーム産業論などの講義を受け持たせていただくことになりました。

 

 

 2.高校の教科書(英語)に載りました

 

 第一学習社の高校三年生向け英語教科書『Vivid English Communication』にて10ページにわたってゲーミフィケーションが取り上げられ、# denkimeterがその代表事例として紹介されております。

 

https://pbs.twimg.com/media/CBwMkCQVEAEHAMZ.jpg

  

 

2014年度/井上・業績リスト

はっときます。

 

■書いたもの
1,井上明人,「多様な身体を包摂する拡張パラリンピック計画――オリンピックとパラリンピックを融合する新たなスポーツのルール設計」,2015年2月,第二次惑星開発委員会、『Planets vol.9』所収,PP.88~95
2,根本啓一, 高橋正道, 林直樹, 水谷美由起, 堀田竜士,井上明人,「ゲーミフィケーションを活用した自発的・持続的行動支援プラットフォームの試作と実践」,2014年6月,情報処理学会55巻、6号1600-1613
3,井上明人福田一史、鎌田隼介、細井浩一、中村彰憲,「デジタルゲームにおけるプラットフォーム概念の基礎的区分の再提案」,2015年3月,日本デジタルゲーム学会、2014年度年次大会予稿集PP.159-162
4,井上明人福田一史、鎌田隼介、細井浩一、中村彰憲,「コンピュータ・ゲームに関わる諸データベースの問題と可能性」,2015年3月,日本デジタルゲーム学会、2014年度年次大会予稿集PP. 163-166
5,井上明人,連続コラム「ゲーミフィケーション~すべてのデータはゲームになる~」,月刊 日本行政,2014年7月~9月

■研究発表等

1,井上明人,「2020年のパラリンピック」,2014年6月,公共経済政策学会 若手研究会、立命館大学 東京キャンパス
2,井上明人,「2020年のパラリンピック」,2014年12月,公共経済政策学会 2014年度年次大会 、関西学院大学
3,井上明人,「デジタルゲームにおけるプラットフォーム概念の基礎的区分の再提案」,2015年3月,日本デジタルゲーム学会、2014年度年次大会、宮城大学
4,井上明人,「コンピュータ・ゲームに関わる諸データベースの問題と可能性」,2015年3月,日本デジタルゲーム学会、2014年度年次大会、宮城大学

■講演
1,簗瀬洋平/井上明人吉田寛,「ゲームの「ナラティブ」がどうしてこれほど問題になるのか?」KANSAI CEDEC 2015,大阪芸術大学 スカイキャンパス ,2015年2月

■受賞学術賞など
1.情報処理学会,情報処理学会論文誌ジャーナル特選論文,「ゲーミフィケーションを活用した自発的・持続的行動支援プラットフォームの試作と実践,2014年6月
※1st Author は根本啓一。井上はlast Author

セミクローズドな勉強会やりますよ、というささやかな広報。

 9月30日から、セミクローズドな勉強会を、Skypeもしくはgoogle hangoutで、はじめる予定です。前からちょいちょいやってたりしましたが、時間の都合がつかなくなったりして、いろいろと中断したりしたので、正確には再開しますよ、というかんじですが。
 だいたいの勉強会の雰囲気は、下記のような感じの運用になりますが、「参加したい」という方は、井上(hiyokoya6 [ at mark ] gmail .com)までお声がけください。

  • 文献としては、主にゲーム研究に関する人文&社会学系の英語文献の被引用件数の高い文献を読んでいきます。"half real"あたりはスキップします。読んでいる前提で。
  • 参加者は、3ヶ月に一回程度は自分で任意の英語文献についてレジュメをつくって発表してもらう予定です。基本的には人文、社会学系で、博士後期課程~大学教員ぐらいの方を主に想定していますが、ご自分でこの勉強会のために時間のつくれる方、そっち系の英語や人文用語がご自分でなんとか対応できる、という方でしたら特にどのような立場の方でも何の問題はありません。ただし、基本的には専門家が生産性をあげるための互助的な性質の会であるため、あまり親切なフォロー等はないということだけ予めご理解ください。
  • 日本語がネイティヴではない方も参加していますが、ディスカッションは日本語で行います。すみません。
  • あまり参加者が多すぎても、少なすぎても議論がもりあがらないので、だいたい毎回4人~7人ぐらいの参加者でまわす想定です。あまり、参加者が多くなりそうでしたらお断りさせていただきます。
    • ただし、経験上、半年ぐらいこの手の勉強会をつづけると、都合がつかない人がちょいちょい出てきて人が減っていく傾向にあります。ですので、一度「もう人多すぎです」と断れれても、半年ぐらいしたところでもう一度ご連絡していただけると、対応可能になることが多いです。というか、この記事を半年後ぐらいに見つけた方は、一応ご連絡いただければ、状態によっては対応いたします。
  • 「英語文献を自分では読めないけど、中身だけ聞きたいです」という方、もしいらっしゃいましたら、1.連絡窓口、2.MLの管理 3.リマインダー

4.発表担当者へのプレッシャーかけ 5.スケジュール調整 等の仕事を引き受けてくれる方でしたら、1名のみ大歓迎いたします。

読むもの候補:【Google Scholarでの被引用件数の高い文献について】

下記をクリックしてご覧ください。

検索ワード:digital game
http://scholar.google.co.jp/scholar?q=digital+game&btnG=&hl=ja&as_sdt=0%2C5

検索ワード:computer game
http://scholar.google.co.jp/scholar?q=computer+game&btnG=&hl=ja&as_sdt=0%2C5

検索ワード:video game
http://scholar.google.co.jp/scholar?q=video+game&btnG=&hl=ja&as_sdt=0%2C5

検索ワード:videogame
http://scholar.google.co.jp/scholar?q=videogame&btnG=&hl=ja&as_sdt=0%2C5

 Google Scholarの被引用件数が高くない文献でも、重要だと指摘される文献があれば、特に誰もGoogle Scholar教徒とかではないので、その都度ご相談となります。メンバーの中には博士論文かきあげたばっかりな人とかもいるので、博論を聞く会とかに、何回かなったりするかもな、という感じです。

渡辺 修司、中村 彰憲『なぜ人はゲームにハマるのか』を読んだので、著者らまじえてUST読書会をしましたよ

一応、立命館RCGSのイベントということで。
データのURLだけとりあえず案内しておきますね。

  • 参加者(敬称略)
    • 渡辺修司(著者)、中村彰憲(著者)、井上明人(コメントパワポ作成)、松永伸司(Skype経由でコメント)、吉田寛(最後2時間ぐらいコメントで参加)

 それとあと、プレゼンの最後のほうで「この表記は要解説」などとしているところがありますが、著者本人らによる、「補講」の記事が二つほど、SBクリエイティヴにUploadされたとのことです。

著者らと話してわかったことのいくつか

  • 1.まだ議論しながら、モチベーションが高い状態でモデルをつくっている最中でもある。
  • 2.人文系の作法というよりは、中村さん的には、現場の知をどう明示化していくか、というナレッジマネジメントの文脈でやっているとのこと。
  • 3.独自表記は、「サブゲーム間の循環構造」と「選択の分岐」の二つを同時に表してしまっているのではないか、と僕はツッ込んでいるけれども、渡辺体系のなかでは、循環構造は、問題にはされていない。なので、比較的シンプルな体系として一貫性をもっている。
  • 4.「最小単位」「基本単位」云々といったあたりの議論は、少なくとも数年前とくらべるとさほどこだわっていない
  • 5.ナレームについては、渡辺さんは、ナラティヴというよりは、フィクションの構成要素というような意味で使っているような雰囲気が強く、中村さんはもう少しナラティヴよりの文脈のようだ
  • 6.「効率」概念が、「効用」や「満足度一般」の概念に置換可能かどうか。(あるいは置換不可能であるとすれば、なぜ「効率」という概念であるとよいのか、が)まだ要議論、という印象。

 などなど。
 くわしくは、USTをご覧くださいまし。

 渡辺さん、中村さんをはじめご協力いただいたみなさま、ありがとうございました!

なぜ人はゲームにはまるのか