Critique of Games メモと寸評

http://www.critiqueofgames.net の人のブログです。あんまり更新しません。

gaming disorderの報道関連について、思ったことのメモなど

簡単なメモ

 

  • gaming disorderに関する議論は、調べればすぐわかることだが、Griffithsらなどの研究等を筆頭に、「科学的」なプロセスでの国際的な合意形成に向けた議論は積み重ねられている。単にgoogle scholarで、ぐぐって読んでほしい。たとえば、下記のレビュー論文にざっと目を通すだけでもいい。King, Daniel L., Maria C. Haagsma, Paul H. Delfabbro, Michael Gradisar, and Mark D. Griffiths. "Toward a consensus definition of pathological video-gaming: A systematic review of psychometric assessment tools." Clinical psychology review33, no. 3 (2013): 331-342.https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0272735813000056
  • このプロセスは基本的にゲーマー寄りの側からの反論が「そんなものは科学ではない」ないし、科学方法論批判的なメタ的批判が多く、同じ土俵で戦えていないという感触がある。このままだと、噛み合わないまま、話がすすんでいく。(もっとも、SNS内での議論自体はやらないよりは、やったほうがいい。ただ、片方の側がネット上にいないので議論自体がほとんど成立していない。)
  • 正直なところ科学批判系の議論は、もちろん重要だとは思うが、単純なはなし、有効打になっていないと思う。
  • gaming disorderに関する「科学コミュニティの合意形成プロセス」に、どう介入するかを考えないことには、政策的にこの問題に意見を反映させていくのはむずかしかろうと思われる。
  • 「長時間プレイ」が特に問題化されているのだという誤解は、gaming disorderの批判側も推進側も等しくもっていることが多いが、これは非常に不毛としか言いようがない。長時間プレイが論点なわけではない。
  • gaming disorderの報道はかなり問題のある報道が多く、私がコメントした朝日の記事も全体的な論調としてはかなり微妙で、無力感が漂った。麻薬とかだと「薬物報道ガイドライン」が提唱されており、こういったガイドラインが必要だと感じる。「長時間プレイをことさら問題にするのは、本来、問題のないゲームプレイヤーに対して萎縮効果を与える可能性がある」ということは、取材されるたびに、繰り返し言っているのだけれども、ぜんぜん通じなくて怖い。なんなん。
  • 私に見えている範囲で、理解されていないと感じる、報道に考えてほしいと思うのは、だいたい次のような点
  • 1 どれか一つの要因が主要因であるかのような報道を行わない。:とりわけ、長時間のゲームプレイが主要因であるかのようなミスリードした報道が目立つが、こういった報道は「単に熱中している人」までが不当に避難され、ゲームをしていること自体をスティグマ的に機能させる懸念がある
  • 2 診断基準が複合的基準であることについて可能な限り言及する
  • 3 有病率についての強い合意はない。有病率を報道することの「わかりやさ」の魅力に引っ張られすぎてはいけない。:DSMとICDの基準で、まったく違う数値がでてくる。
  • 4 ゲームによる依存や障害の研究は最近始まったばかりなのではなく、すでに10年以上どういった基準が妥当なのかについて細かな議論を行なっている。最近になってはじめて調査がすすんでいるというわけではない。
  • あと、現状できることとして、やはり報道によるレイベリング効果が心配なので、一連の「ゲーム依存報道」による、再帰的なネガティブな影響がどのような形で現れたのかを、同じ対照群できちんと見ていったほうがいいだろう。小中学校の子供に追跡調査ができたらいいと思うが、社会心理学界隈でそういったことに興味のある人がいたら、ぜひやってほしいのだけれども……。
  • 結局の所、「科学」のコミュニティ内部で可視化されている実証的研究のバリエーションがgaming disorderの実証&治癒に偏るとする、この件についてのレイベリング効果は「科学」からは不可視な現象となってしまうので、ないことと同じになってしまう。
  • 数週間程度でできることなら、もちろん自分でやる。けれども、話の負荷がかなり大きいので、この分野でキャリアを積もうと思っている人が現れないことには、話にがっちりタッチするのが大変。ここらへんが、ゲーム研究コミュニティの層の薄さの問題だと思う。社会心理学の人にもっときてほしい。
  • ってか、今回、報道のあった樋口さんの調査はどこで見られるのかがわからない………。はげひげ先生がコメントしてるのを見ると、なんか、どっかで公開されてるのだろうか……。
  • ここで公開されていた。https://www.ncasa-japan.jp/docs
  • 「ネット・ゲーム使用と生活習慣についてのアンケート結果(概要) 」を読んだが、正直、これは、樋口先生らの「要約」通りにNHKは報道している印象なので、NHK側の問題というよりも、樋口先生サイドの問題だと思った。(NHKの人、すまんかった)。
  • いや、樋口先生、こういう要約はやめましょうよ………。
  • 「別添」のほうが、調査票と、調査結果なので、そちらを中心にデータをみたほうが、よさそう
  • パット見「イースポーツの選手になるために、ゲームをしていますか?」に「はい」答えている子が64人もいるが、この子らについては、プロ選手を目指してスポーツにのめりこんでいる子と、同様の枠組みになるので、単に「disorder」の枠組みで片付けるのは無理が出そう。
  • あとは、はげひげ先生も言っているが、ワンショットではない縦断調査は必要。
  • この質問表に、レイベリングによる負の効果の調査もできるような枠組みをつけてほしいな。っていうか、ゲーム依存のような社会的にレイベリング効果が懸念される調査研究の場合の、調査設計では、そういう質問項目のをデフォルトでつけてほしい……。

 

関連するエントリとしては、下記も参照

 

(1) 2018.3.1

ロシアの自殺ゲーム「Blue Whale」の衝撃 井上明人×高橋ミレイ対談(前編)|Real Sound|リアルサウンド テック

 

(2) 2018.6.14

井上明人『中心をもたない、現象としてのゲームについて』第25回 ゲームは依存の仕組みなのだろうか?(学習説の他説との整合性⑤)【毎月第2木曜配信】 | PLANETS/第二次惑星開発委員会 

  

(3) 2018.7.17

ゲーム依存関係の話について

http://hiyokoya.hatenadiary.jp/entry/2018/07/17/124831

 

追記メモ@2020年6月29日:

↓オンラインゲーム・プレイヤーと、そうでない人の間のコミュニケーション特性に有意な差が見られないという論文

 
木暮照正. (2012). オンラインゲーム・プレイヤーのコミュニケーション特性: オンラインゲーム場面と日常場面における協調的コミュニケーションの比較.

http://ir.lib.fukushima-u.ac.jp/repo/repository/fukuro/R000004292/21-27.pdf

 

 

2020年7月20日

井出先生のブログが、しっかりと文献レビューを含めて行っている。この問題について、関心の高い人には強くおすすめ。

ides.hatenablog.com