Critique of Games メモと寸評

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『ダンジョンズ&ドリーマーズ』書評

またもやamazonが載っけてくれないようなので、amazonに投稿して載せられなかったレビューを転載します。

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ダンジョンズ&ドリーマーズ
★★★★★ 大変な力作

 本書は、2003年8月に米国で出版された米国ゲーム史の詳細なドキュメント。

 おおまかな内容としては、主に前半は1970年代以降、米国ゲーム史を作り上げてきた英雄達―――リチャード・ギャリオット、ジョン・ロメロ、ジョン・カーマックウィル・ライト等に焦点をあてて彼らの生い立ちから紹介し、その成功物語を詳細に綴っていく。
 後半は、90年代中盤以降のMMOやFPSなどのオンラインゲームの動向に着目し、オンラインゲームコミュニティを形成するゲーマー当人達を描き出すのみならず、コロンバイン高校の銃乱射事件との関わりや、CPLをめぐる意図、ゲームの開発当事者達の抱えていた問題点など、現在のオンラインゲームコミュニティの状況を極めて多角的に描き出している。

 今までも、任天堂について書かれた『ゲーム・オーバー』や、ポケモンについて書かれた『ポケモン・ストーリー』など、日本のコンシューマー市場について主に<開発者達の成功物語>という観点から描き出した力作はいくつかあったが、米国のPCゲーム市場の歴史をここまで詳細に描いたものは初めて読んだし、何よりも開発者だけではなくプレイヤーにもスポットを当てていることが素晴らしい。
 「開発者の成功物語」という視点からのみ描かれたものも確かに面白いが、単なる「成功物語」ならばゲーム業界以外にだって存在しているのだから「ゲーム」というメディアの革新性を伝えるための表現としては弱くなってしまう。そこで敢えて開発者のみに焦点をあてるのではなく「プレイヤー」達のゲームへの接し方、および、それをめぐる多層性を描き出そうとしたことによって、いかにゲームが新しい存在なのかを垣間見せることに成功している。著者が真剣に頭を悩ました上で、戦略的に本書を仕上げていることがよくうかがえる。心から賞賛を送りたい。

 唯一、不満を挙げるとすれば、ゲームの画面写真が全くないことだろう。著作権関係で仕方のなかったことかもしれないが、文中で挙げられている当該ゲームをほとんどやったことのない人には不親切と感じられるかもしれない。