Critique of Games メモと寸評

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<学習過程>としてゲームを捉える〜「おもしろい」のゲームデザイン〜

「おもしろい」のゲームデザイン ―楽しいゲームを作る理論

 Raph Kosterの『「おもしろい」のゲームデザイン』(原題:"A Theory of Fun for Game Design")読み中。

 ゲームの形式について論じていても仕方ナイジャン!っつって、プレイヤーの意識のほうにアプローチしようと思うと、しばしばチクセントミハイの「フロー体験」とか引き合いに出してそれ以上の理論的な進展の方向性にアタリがつけなくなる場合が多い。だけれどもRaph Kosterは、「フロー体験」とかで説明してもよさそうなところを、「フロー体験」には言及するにとどめ、「チャンク」とか「パターン」といった概念によって、ゲームにおける学習過程を説明することで独自の議論の深め方を行っていく。この点は大変に興味深い。

 で、こうした、ゲームについて説明をしようとするRaph Koster氏の欲求は、たぶんJesper JuulとかEric Zimmermanらとはたぶんちょっとだけ別のところにある。*1

 この本を読んでいて、Raph Koster氏的な立ち位置があるということで(1)同時に自分がZimmemanらに対して抱いていた物足りなさ、(2)前々からゲーム性の定義を「学習過程」として捉えるようなid:ityouさんのような議論を計りかねていた 二点もスッキリ納得できた気がしますた。

 えー、これだけ言ってもなんのコッチャイという感じだと思いますが、

 そこで、はてなダイアリーキーワード「ゲーム性」に以下の記述を加えてみました。

「ゲーム性」という概念の統合的な捉え方

 ゲーム開発者の桜井政博はこの概念を「リスク&リターン」という枠組みで捉えればよいのではないか、と提案している。ほかにも、多くの論者がいろいろと考えた末に、この概念を「駆け引きの妙」だとか「トレードオフ」といった側面から捉えられるのではないかと論じており、ここには一定の共通性がみられて面白い。
 また、他の有力な捉え方としては、「トライアンドエラーでスキル向上をしていく学習過程」というような方向性も挙げられる。こちらは"A Theory of Fun for Game Design"(邦題:『「おもしろい」のゲームデザイン』2005)のRaph Kosterあたりが代表格だろうか(「ゲーム性」って言葉は実は使ってないけど、ゲームの面白さの本質を記述しようとする姿勢は海外の人もおんなじ)。Raph Kosterはゲームプレイ時において生じる学習過程を「チャンク」「パターン」などというようなゲームプレイヤーによる意識の形成から説明し、ここにゲームの面白さの発生の仕組みを見出している。

 両者は、双方ともにゲームの「面白さ」を説明しようという点においては一致点を見出せる。だが、なぜこのような差異が生じるのか?
 私見を述べると、前者の「トレードオフ」「駆け引き」といった捉え方ではゲームのルールの形式や構造に着眼されており、後者の「チャンク」「学習過程」といった捉え方では、ゲームのルールをプレイするプレイヤーの意識、感覚に着眼されている。そう見るならば、両者の定義するところには異なっていても実は着目する対象が少し異なっているだけということであって、両者の立場は対立しているというよりも相互補完的なものであると考えられるだろう。

 なにわともあれ、ゲームプレイヤーの主観的な意識の構成について説明しようとする立ち位置はマジで貴重なので、その意味で本書は大変に重宝できるかと思われます。

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追記。

Raph Koster Website
http://www.raphkoster.com/

著者への松浦雅也氏によるインタビュー
http://www.oreilly.co.jp/editors/archives/000078.html

*1:邦訳版の16ページでは、実際そういってる。Zimmermanらに言及した上で「しかし、おもしろさは非常に根源的なものでもっと基本的な概念で理解できると思えませんか?」といって、Zimmermanにちょいとケンカ売ってます。