Critique of Games メモと寸評

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ゲーム依存関係の話について

 いろいろと複雑な話なので、改めて現時点での立場をなるべく簡潔に書いておきます。

  1. 精神医学における基準であるDSM-5での「インターネットゲーム障害」、ICD-11で提案される「ゲーム障害」は、単なる長時間の繰り返しのゲームプレイとは全く別物であるという認識にたっています。よって、ゲームへの「依存」や「障害」をその根拠として、ゲームを長時間プレイすることを積極的に排除すべきだという言説については、明確に反対してます。
  2. 過去の先行研究の蓄積からも、私自身が実施した調査からも、DSM-5上の「インターネットゲーム障害」に該当する事例は存在すると捉えています。(それが、「疾病」概念に相当するものかどうかはわかりませんし、「疾病」概念の妥当性を構成する要素については私は知識がありません)
  3. ただし、DSM-5や、ICD-11の基準を妥当なものとして支持するどうかについては、検討を必要とすると考えています。ICD-11の定義は広範すぎるのではないか、という懸念をもっていますが、DSM-5については、ICD-11の基準よりは相対的に支持できるものだと捉えています。とはいえ、DSM-5の「インターネットゲーム障害」は9個中、5つ以上のチェックがついた場合に、障害として分類されていますが、「5つ」という基準の妥当性については本当にそれが妥当かどうかは悩ましいと思っています。問題を扱うための標準的なスケールが必要であるという立場には賛同しますが、現状のDSM-5やICD-11の内容のまま話がすすむのは望ましくない状態になる可能性があると考えています。とはいえ、「ゲーム脳」のようトンデモ話ではありませんので、具体的な線引きをめぐって根拠をだして議論していくべき問題だろうと考えています。(ただ、残念ながら、私自身はこの問題自体を専門的に研究しているわけではないので、より近い立場の専門家を支援するという以上のことはできません)
  4. 一方で、確実に合意ができるだろう線引きとしてはDSM-5で、9つすべてに当てはまるようなケースでは、確かに社会的対応をしていったほうがいい。その水準のケースについてまで「存在しない」「問題ない」とは言えないと思います。
  5. 社会的な対応を行うべき「障害」の対象となる人数については、先行研究でもかなり大幅な違いが出ています。50万人~70万人規模の人数がその対象となりうるという研究結果は、積極的に支持できないと考えています。主張の手続きがないとか偏見だというより、前提の置き方について議論が必要だと思っています。一方、社会的対応をすべき人数が0人であるとも思えません。かなり少なく見積もって、DSM-5のチェックポイントを9つすべてを満たす人だけでも、100人以上はいるだろうと思います。具体的な人数の算定は、今後の研究・議論を必要とする論点だと考えています。

 

 1点目と3点目は、ゲームを擁護する立場に近いものですが、2点目と4点目は、ゲームを問題視する立場の人の意見とも整合的です。

 なお、私としては、ゲーム依存/ゲーム障害については、立場を示せと言われれば上記のように示しますが、この問題の専門家かと言われると違うので、この話で取材がきた場合、まずは渋谷明子先生とか、篠原菊紀先生を推すようにしています。

 樋口進先生とかは私の立場とけっこう違うと思いますが、この問題についての標準的なスケールを構築するという仕事が必要だという観点については、同意できると思っています。

 

 ゲームと依存については、下記の記事でも論じています

 

 

(1)2018.3.1

ロシアの自殺ゲーム「Blue Whale」の衝撃 井上明人×高橋ミレイ対談(前編)|Real Sound|リアルサウンド テック

 

(2)2018.6.14

井上明人『中心をもたない、現象としてのゲームについて』第25回 ゲームは依存の仕組みなのだろうか?(学習説の他説との整合性⑤)【毎月第2木曜配信】 | PLANETS/第二次惑星開発委員会