Critique of Games メモと寸評

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竹野 真帆(2015)『オンラインゲームは若年層に悪影響をあたえるのか?』夏目書房新社

 著者の博士論文である 竹野真帆. (2014). オンラインゲームの訴求力とその若年層への影響を出版したもの。オンライゲームのポジティブな側面を示そうと、いろいろと悪戦苦闘している論文である。本のタイトルは売れ行きとかを考えて、ちょっと変えたということだと思うが、もとの博士論文のタイトルのままのほうが内容に対する誤解は少ない。

 タイトルからして、渋谷先生とか、坂元章先生ライン系の内容だと思っていたのだけれども、そういう内容とはけっこう違った。

 

■「研究I」

序盤の「研究I」ではだいぶ長々とジュネットの話をしたり、ジェンキンストドロフ、ブレモン、バルト、レヴィ・ストロースなどへの言及が続き、物の構造分析手法を応用して、『どうぶつの森+』、MMORPGの『テイルズウィーバー』の分析、『アトランティカ』の三作品が分析される。

■「研究II」

調査1で、インタビュー調査として、小学校1年~6年生までの25名に対して半構造化インタビューを実施し、主に『アメーバピグ』についての調査をしている。

調査2では、同じく『アメーバピグ』を対象にした調査だが、こちらは、中学生に対する非構造化インタビューを実施している。

■「研究III」

最後の研究IIIでも、ひきつづき『アメーバピグ』を主な対象に、チャットデータのログを収集し、テキストマイニングをしている。数量化III類のようなタイプの対応分析として、ここではLSAが用いられている

■「研究IV」

ひきつづき『アメーバピグ』を主な研究対象として据えつつ、公立中学校11校に在籍する3517人にアンケート調査をしている。

 

その他、内容的な要約は、フェリスの機関リポジトリでも公開されているものが読めるので、ご確認いただきたい。

ferris.repo.nii.ac.jp

 

 1987年生まれの著者の2014年時点での博論(フェリスの人文科学研究科)ということを前提でいえば、大学院生の博士課程の論文としては、方法論的にはとても野心的で、人文学的な議論と定量的な議論を接続させようとする意志が感じられる点はとても良いと思う。ゲームの研究分野にこういう若手が出てきているということ自体は、個人的にはとても歓迎できる。

 一方で、指導的なコメント……などというと恐縮なのだが、やはり、こういった内容だと、単純に渋谷先生や、坂元先生のような先生の指導をもうすこし、がっしりと仰いでもらったほうが、ディシプリン的にはクリアーな論文になったかな、という印象は正直なくはない(たとえば、「研究IV」などでは、もう少し先行研究で用いられている尺度をベースにするだとかはできたのではないか、とか、そういう細かなポイントでコメントしたい点はいろいろあるにはある)。

 ……とはいえ、序盤の文学理論系の話とかが混じった話というのは、実験心理系教員の指導ではむしろ難しいものがあるだろう。なので、その意味では、独自路線で論文を書こうという意志を感じる点はそれはそれとして好感を抱くので、ぜひ問題意識を今後、洗練させていって欲しいと思う。

 

 あと、素直に、この著者がすごいなあ、と思うのは、このあとスクエニで『拡散性ミリオンアーサー』『ヘブンストライクライバルズ』などの大変そうなタイトルのディレクターをやっているということで、とてもではないけれど、私などはそういう働き方はできないので、素朴に尊敬してしまう。

 今後のご活躍を期待したい。