Critique of Games メモと寸評

http://www.critiqueofgames.net の人のブログです。あんまり更新しません。

東浩紀『ゲンロン戦記』(2020、中公新書ラクレ)

 

  • 遅ればせながら読んだ。下記、雑駁な感想。
  • 東さんの本は、『動物化するポストモダン2』もそうだったのだけれども、自分が完全にお客さんというわけでもなく、読書体験としてはかなり特殊な部類に入るなと思う。
  • 内容的には、東さんが飲み会などでお話されている雰囲気で概ねの記述がすすんでいくので「まさか、東さんから、こんな見え方をしていただなんて……!」というような驚きはない。けれども、ゲンロンの活動は、内部事情を知らない部分も多かったので、なるほど、そういうことがあったのか、という感じでスルスルと読めた。
  • 言論のプラットフォームをつくるという東さんの仕事は、私のような人間にとっては著しく重要で、本当にお世話になってきたと思っている。特に、2005年6月~2006年6月の1年間は私は、GLOCOMの東浩紀研究室所属ということになっていて濱野くんや、山根さん、松谷さんらと、isedの仕事をやったり、『智場』を編集したり、RGNという研究会をやったりと本当にいろいろとやらせていただいた。そのあとも、数年に一度お会いしたりしつつ、2018年は『ゲンロン8』を一緒に作った。
  • 仕事相手としての東さんについてあまり細かい話を書く気はいまのところないけれども、ゲーム業界を作り上げてきた方のオーラル・ヒストリーを作っていくような仕事をしていると、自分のやってきた仕事の周辺が誰かによって語られた場合、どう見えるのだろうということを考えるが、そう言う意味でいろいろと考えさせられた。
  • 東さん関係で、見えにくくなっていることできちんと記録残しておいたほうがいいことはいろいろあるように思う。
  • 一つは、誰が東さんによって見いだされたかということは、もう少し可視化しやすくなっててもいいかもしれないと思う。濱野くん、宇野さん、黒瀬さんやゼロアカ道場関係者のみなさんなどは、多くの東さんのファンの人からみえているような人は、さすがに誰かが記憶しているとは思う。だが、私ぐらいだと、東さんファンとかからすると「そういえば、そういう人いるね」ぐらい(かな?)の見え方だと、かなりの東さんファンか、東さんに関係の近い人でも無い限り全体像がわからないだろうし、なんだったら関係の近い人でも、わからなくなってきているだろう。
  • たとえ思想的な世界観といったような意味で、それほど東さんの影響下にいるとは言えなくとも、キャリア形成が、東さんによってそれなりに影響を受けた人は少なくないと思う(残念ながら、ネガティブな影響を受けた人も含めて)
  • いわゆるロスジェネ世代あたりから下の年齢で、サブカルチャーに関わるような仕事をしてきた知識人、批評家、研究者だと何らかの形で東さんと関わっていることは多いし、国内の情報社会論や、サブカルチャーをめぐる議論のコミュニティ形成史を考える上で、東さんの影響というのは本当に小さくないと思う。「国内のサブカルチャーに関わる議論はすべて東浩紀の影響下にある」みたいな言い方はさすがに間違っているとしか言いようがないけれど、「影響力の大きかった個人」「議論の場を作ることに注力しようとした個人」という意味では、東さんの貢献は大きい。
  • 東さんよりも下の年齢の、私と同年代前後の論壇的な人だと、チャーリーさんはLIFEを、荻上さんはsessionを、宇野さんはplanetsを、鈴木健さんSmart Newsをつくっている。みんな議論のプラットフォームをつくるという仕事に強い情熱をもっていて、この世代の日本の論壇人が、論壇人としてのプレイヤーである以上に「論壇」そのものの再設計をしようという意思が明らかに強かったということは、後にどう語られるのかわからないけれども、人の発掘と、プラットフォームの議論のプラットフォームの設計をしようということをやっている。
  • もちろん、ちょっと前の世代を考えても、柄谷さんにせよ、浅田さんにせよ「場」をつくるということにはコミットしてたわけだし、それこそ松岡正剛のようなタイプの知識人も前の世代にはもちろんいる。
  • ただ、プラットフォームをつくるというよりは特定の政治的な目標を含んだ「運動」にコミットしてその代表者として活躍してきた知識人とかも多かったのも事実ではある。実際、いまでも知識人を特定の「運動」と結びつけてイメージする人はかなり多いと思う。もちろん、今でも、特定の「運動」の達成を目指す知識人はいるし、別にそれが悪いというわけでもないが、プラットフォームをつくる知識人の活動は、運動家のそれとは近いようで違う。もちろん、大学的な「知」のあり方とも違う。
  • そういうことと絡めて本書は、あと数十年後に知識人論みたいなことをやる人にとっての重要文献になるんだろうなあ、などと思いつつ読んだ。