Critique of Games メモと寸評

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尾原和啓,2020『ネットビジネス進化論』NHK出版

 

 尾原さんの新著。

 尾原さんの本を読むのは、『ITビジネスの原理』『アフターデジタル』につづいて三冊目。

 『ITビジネスの原理』と同じく、 なぜ、Googleのビジネスモデルが強いのか、といったようなある意味で、IT業界の関係者であれば、当然わかっているであろう内容を、(1)基本的なことからしっかりと (2)なるべくITビジネス全般を網羅的に 示そうとした、「ITビジネスの教科書」とも言える内容。前著よりも、内容がアップデートされると同時に、ページ数も増えている。

 実業の人の本なので、学者の書く本よりも、基本的にエピソードベースであり、わかりやすい内容。

 もっとも、学者的な観点から言えば、記述が柔らかすぎるという評価もありうる。たとえば、インターネットと経済というようなものであれば、実積寿也『通信産業の経済学』や、ジャン・ティロール『良き社会のための経済学』の第14章~16章あたりなど、しっかりとした学者による知見は徐々につみかさなっており、そういった本の方が、たとえば大学のテキストにするには向いている。ただ、、インターネット関連ビジネスの論点は経済・経営学的な議論もあれば、情報工学的なものまで拡がっているおり、学者が書こうとするとどうしても、一人の研究者が書ける内容ではなくなる。学者が書くと、この内容はどうしても複数人が手分けして書いた教科書のようなものにならざるを得ない。学者による教科書的な本のなかでしっかりと論じられている内容というのは、どうしてもトピックの網羅性という点だと、現場の第一線に近い人よりも論じられている内容のひろがりに限界があるという問題もある。

 そういったことを「現場の第一線に近いところにいる人が書いた教科書」というのは、単純に意義があるといっていい。

 インターネットのビジネスモデルの基本的なことをわかっていない人が最初に手に取る一冊としては、おすすめできる本だと思う。

 

 #上にも書いたが、この本を読んで、次にすすむべき、より学者めいた情報通信産業の教科書としては次の本がおすすめできると思う。